尾崎研究室とは。
カーボン材料の極限を追求する研究室です。このページを見てもらうと分かりますが、60年以上もの長い間、カーボン材料一筋に打ち込んできた研究室です。といっても、僕が半世紀以上やってきた訳ではありませんが。ちなみにカーボン材料とは、炭のことです。もちろん、カーボンナノチューブ、フラーレン、グラフェンといったハイテク材料も炭の仲間だと言うことです。今、僕の研究室で力を入れていることは、水素エネルギー社会を目指し、その基盤を担う材料をカーボンで実現することです。少し具体的に言いますと、「水素をつくる」、「水素をためる」そして「水素を使う」ためのカーボン材料を作ることです。この研究を提案して、平成23年度群馬大学は「アドバンストカーボン構造・機能相関解析研究拠点」として文部科学省(低炭素研究ネットワークLC-net)より認められ、大型装置が導入されました。この拠点整備計画では、全国で18大学・研究所が選ばれました。
研究概要
燃料電池用カーボン触媒の開発
当研究室では、水素エネルギー社会を目指し、その基盤を担う材料をカーボンで実現することに力を入れています。より具体的に言うと「水素をつくる」「水素をためる」「水素を使う」の三要素それぞれの課題に適したカーボン材料の開発やメカニズム解明を日々行っています。
その中でも当研究室では「水素を使う」技術を主に研究しています。この技術は、燃料電池に使われています。燃料電池は、現在白金を用いているため、非常にコストが高いことが問題となっています。この問題を解決するために当研究室では安価な炭素材料に注目し、ナノシェル含有カーボン(nanoshell-containing carbon, NSCC)を開発しました。
ナノシェルとは右図に示すように、炭素の層がいくつも重なっており、中が空洞になった中空球殻状構造を有しています。直径は20~50 nm程度で、樹脂と金属を混ぜて焼くことでこのようなナノシェルが形成されます。現在ナノシェル含有カーボンは、白金の約7割の性能を持っており、更なる高性能化を目指し研究をしています。NSCCは燃料電池のカソード反応である酸素還元反応(ORR)に対し活性を示します。そのORR活性はナノシェルの表面構造に依存することが分かっています。低活性なNSCCは非常になめらかなナノシェル表面を有する一方、高活性なNSCCに含まれるナノシェル表面には、右図分子モデルに示されるエッジや湾曲した網面等の炭素構造の“乱れ”が見られます。我々はこのナノシェル表面に形成された構造欠陥がORR活性発現に関与していると考え、触媒性能高性能化に向けて、カーボン構造の最適化に取り組んでいます。
当研究室で開発したNSCCをベース技術として、日清紡ホールディングス(株)とカナダ Ballard Power Systems Inc. により、カーボン触媒を搭載した世界初の非白金カソード触媒によるポータブル型の固体高分子形燃料電池が実用化されました(日清紡HD、日経新聞)。このカーボン触媒の利用により、Ballard社の燃料電池スタックに使用する白金の使用量を約80%削減できたと報告されています。今後、燃料電池自動車本格普及に向けて、カーボン触媒の高性能化、耐久性向上に向け研究を進めています。
カーボンの化学の探求
当研究室ではNSCCをはじめとするカーボン触媒の開発を進めています.カーボン触媒の性能を高めるためには,カーボンの分子構造を理解し,その分子構造と触媒反応の繋がりを明らかにする必要があります.カーボンは基本的にはsp2炭素で構成されますが,構造欠陥や異種元素,表面官能基の存在により,その構造はバラエティに富みます.これら構造欠陥や官能基の存在は炭素表面の化学的性質に大きく影響を及ぼすため,それらの質と量を正確に把握することが,カーボンの化学的性質を理解する上で必要不可欠です.
カーボン材料の化学は,理解が困難であることと黒い材料であることかけて,しばしばBlack Chemistryと言われます.カーボン材料の黒さの根源はπ電子の可視光吸収であり,sp2炭素のπ電子は電磁波や磁場といった分析法でよく利用される分析プローブを吸収ないし遮蔽します.このπ電子による妨害によって,カーボンの分子構造を評価し把握することは困難を極めます.
カーボンの分子構造の分析は,大まかにはカーボンの物性を評価解析することで行われます.ここでのカーボンの物性は化学的性質,光学的性質,電子状態,磁性に大別できます.主要な分析手法とこれら物性との関係を右図にまとめました.当研究室ではこれらの分析法に加え,独自の分析技術を駆使して多角的な視点からカーボンの分子構造の把握を試みています.これにより,カーボンの分子構造とその化学的性質(触媒特性含む) を結びつけ,カーボンの化学の理解に向けた研究を展開しています.
尾崎研究室の歴史
三代にわたる炭素材料研究
群馬大学では,1950年より大谷杉郎先生によって炭素材料の研究が行われてきました.この炭素材料の研究は大谷朝男先生,尾崎教授へと引き継がれ現在の尾崎研究室に至っています.尾崎研究室は70年の炭素材料研究の歴史を持つ稀有な研究室となっています.
西暦 | 教授名 | 歴史タイトル | 解説 |
1950 | 大谷杉郎 | バインダーレス成形物工業化 | |
1953 | 炭素化過程の解明(基礎研究の体系化)出版 | 合成高分子・セルロース・芳香族誘導体・縮合多環芳香族などの炭素化 | |
1963 | リグニン系ピッチ系炭素繊維 | ||
1973 | ピッチカーボン | ||
触媒黒鉛化の体系化 | 各種金属元素との反応 | ||
低温気相熱分解炭素 | 炭素系太陽電池(東海大学) | ||
1983 | 人工歯根材 | ||
焼かない炭素COPNA樹脂 | |||
1993 | 大谷朝男 | カーボンナノファイバー | ポリマーブレンド法の開発 |
尾崎純一 | ナノシェル炭素 | 燃料電池や触媒に | |
2008 | 尾崎純一 | 研究室の独立 | 尾崎研究室のスタート! |
群馬大学での炭素材料研究の系譜
動画集
2013年7月1日 | 2013年オープンキャンパスにて【空気電池実験】 |
2015年6月1日 | 新入生研修にて【研究室紹介】 |
スタッフのご紹介
尾崎純一 | 役職 | 教授/センター長 |
所属 | 群馬大学 大学院理工学府 附属元素科学国際教育研究センター | |
jozaki●gunma-u.ac.jp | ||
経歴詳細はこちら | ||
今城靖雄 | 役職 | 特任教授 |
所属 | 群馬大学 大学院理工学府 | |
石井孝文 | 役職 | 准教授 |
所属 | 群馬大学 大学院理工学府 附属元素科学国際教育研究センター | |
ishii●gunma-u.ac.jp | ||
小林里江子 | 役職 | 助教 |
所属 | 群馬大学 大学院理工学府 附属元素科学国際教育研究センター | |
kobayashi_r●gunma-u.ac.jp | ||
佐々木千明 | 役職 | 技術補佐員 |
所属 | 群馬大学 大学院理工学府 | |
chi_sasaki●gunma-u.ac.jp | ||
佐山幸子 | 役職 | 事務補佐員 |
所属 | 群馬大学 大学院理工学府 | |
ysayama●gunma-u.ac.jp | ||
一色美輪子 | 役職 | 事務補佐員 |
所属 | 群馬大学 大学院理工学府 | |
misshiki●gunma-u.ac.jp |
※メールアドレスの「●」を「@」(アットマーク)に変更してメールを送信ください